自己新株予約権とは?仕訳と減損処理について

簿記検定
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自己株式と同様に、新株予約権についても自己新株予約権として会社が自社の発行する新株予約権を取得することがあります。

しかし、その処理の実態は自己株式とは異なる点も多くあり注意が必要です。

この記事では、自己新株予約権の仕訳や減損処理の方法、自己株式との違いについて解説します。

この記事を読めばわかること

 自己新株予約権とは何か

 自己新株予約権に関する仕訳

 自己新株予約権の減損処理の考え方

自己新株予約権とは

自己新株予約権とは株式会社が有する自己の新株予約権をいいます。

自己新株予約権は資産性を有するため、取得した際には、取得時の時価に付随費用を加算した金額をもって自己新株予約権として資産に計上します。
付随費用を当期の損益として処理する自己株式とは異なるため注意が必要です。

自己新株予約権の取得に係った費用については、取得価額に含めて処理する。(自己株式とは異なるため注意)

自己新株予約権の仕訳

新株予約権の発行

通常の新株予約権の発行です。

借   方金 額貸   方金 額
現 金 等XXX新株予約権XXX

自己新株予約権の取得

自己新株予約権の取得は、株主との資本取引ではなく新株予約権者との損益取引ですが、自己新株予約権の取得時には、その後、当該自己新株予約権を消却するか処分するか必ずしも明らかではありません。そのため、原則として、時価に基づき取得価額を算定し、取得時には損益は計上しません。

借   方金 額貸   方金 額
自己新株予約権XXX現 金 等XXX

なお、取得時の時価に付随費用を加算して取得原価を算定します。

自己新株予約権の消却

自己新株予約権を消却した場合、消却した自己新株予約権の帳簿価額とこれに対応する新株予約権の帳簿価額との差額を、自己新株予約権消却損(消却益)等の適切な科目をもって当期の損益として処理します。

1)消却損の場合

借   方金 額貸   方金 額
新株予約権
自己新株予約権消却損
XXX
XXX
自己新株予約権XXX

2)消却益の場合

借   方金 額貸   方金 額
新株予約権XXX自己新株予約権
自己新株予約権消却益
XXX
XXX

自己新株予約権の処分

自己新株予約権の処分は、株主ではない新株予約権者との取引と考えられるため、処分した自己新株予約権の帳簿価額と受取対価との差額を、自己新株予約権処分損(処分益)等の適切な科目をもって当期の損益とします。

1)処分損の場合

借   方金 額貸   方金 額
現 金 等
自己新株予約権処分損
XXX
XXX
自己新株予約権XXX

2)処分益の場合

借   方金 額貸   方金 額
現 金 等XXX自己新株予約権
自己新株予約権処分益
XXX
XXX

自己新株予約権の減損処理

自己新株予約権の帳簿価額(a)が、対応する新株予約権の帳簿価額(b)を超える場合において、自己新株予約権の時価(c)が著しく下落し、回復する見込みがないと認められないときは自己新株予約権の帳簿価額と自己新株予約権の時価との差額を当期の損失として処理します。

自己新株予約権(a)新株予約権
当期の損失
時価(c)
帳簿価額(b)

新株予約権の時価(c)が対応する新株予約権の帳簿価額(b)を下回るときは、自己新株予約権の帳簿価額(a)と新株予約券の帳簿価額(b)との差額を当期の損失として処理する。

自己新株予約権(a)新株予約権
当期の損失
帳簿価額(b)
時価(c)
借   方金 額貸   方金 額
自己新株予約権評価損XXX自己新株予約権XXX

自己株式との比較

自己新株予約権の取得取引は、自らが発行した新株予約権の買い戻しであり、資産の部と純資産の部の両建て表示ではなく、相殺表示する方が実態に即していると考えられます。
よって、自己新株予約権は、取得価額を純資産の部の新株予約権から原則として直接控除します。

なお、直接控除した結果、新株予約権の残高が負の値となった場合は、当該負の値で表示します。

自己株式自己新株予約権
取得に係る費用当期の費用取得原価に含める
B/Sの表示 間接控除原則:直接控除
例外:間接控除
処分損益の取扱いその他資本剰余金当期の損益
消却損益の取扱いその他資本剰余金当期の損益

例題

次の資料に基づいて、各取引の仕訳を示し、当期末の貸借対照表に表示される新株予約権の金額を答えなさい。なお当期はX1年4月1日からX2年3月31日までの1年間である。

〔資料〕

  1. X1年4月に新株予約権200千個を1個当たり1,400円で発行した。
  2. X1年6月に上記新株予約権のうち120千個を1個当たり2,500円で取得し、手数料6,000千円とともに小切手を振り出して支払った。
  3. X1年8月に自己新株予約権のうち50千個を消却した。なお、同日の自己新株予約権の時価は、1個当たり2,100円である。
  4. X1年10月に自己新株予約権のうち50千個を1個当たり2,000円で処分した。
  5. 当期末において保有する自己新株予約権の時価は1個当たり1,200円と著しく下落しており、回収の可能性があるとは認められない。
  6. 前期以前に新株予約権は発行していない。

解答・解説

1.新株予約権の発行(単位:千円)

借   方金 額貸   方金 額
現 金 等280,000新株予約権280,000

200千個×1,400円/個=280,000千円

2.自己新株予約権の取得(単位:千円)

借   方金 額貸   方金 額
自己新株予約権306,000現 金 等306,000

120千個×2,500円/個+6,000(手数料)=306,000千円
※自己新株予約権1個当たりの帳簿価額:306,000千円÷120千個=2,550円/個

3.自己新株予約権の消却(単位:千円)

借   方金 額貸   方金 額
新株予約権
自己新株予約権消却損
70,000
57,500
自己新株予約権127,500

新株予約権:50千個×1,400円/個(新株予約権の帳簿価額)=70,000千円
自己新株予約権:50千個×2,550円/個=127,500千円
自己新株予約権消却損:貸借差額

4.自己新株予約権の処分(単位:千円)

借   方金 額貸   方金 額
現 金 等
自己新株予約権処分損
100,000
27,500
自己新株予約権127,500

現金預金:50千個×2,000円/個=100,000千円
自己新株予約権:50千個×2,550円/個=127,500千円
自己新株予約権処分損:貸借差額

5.減損処理(単位:千円)

借   方金 額貸   方金 額
自己新株予約権評価損23,000自己新株予約権23,000

自己新株予約権:120千個ー50千個(消却)ー50千個(処分)=20千個

自己新株予約権
簿価:51,000千円*1
新株予約権
当期の損失
23,000千円
帳簿価額
28,000千円*3
時価 
24,000千円*2

*1 20千個×2,550円/個(自己新株予約権の帳簿価額)=51,000
*2 20千個×1,200円/個(自己新株予約権の時価)=24,00

この場合、自己新株予約権の簿価51,000千円に対して、時価が24,000千円となっていますが、新株予約権の帳簿価額が28,000千円と自己新株予約権の時価より大きいため、新株予約権の帳簿価額まで簿価を切り下げます。したがって、発生する減損(評価損)は23,000千円(51,000ー28,000)となります。