分配可能額とは?のれん等調整額や具体的な算定方法

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会社法の規定により、剰余金の配当や自己株式の取得を行う際には、株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額が、分配可能額を超えてはならないとされています。

会社法は、会社債権者保護のため会社財産を流出する場合において金額的な制限を課しています。

この記事では、分配可能額の計算方法やのれん等調整額について解説します。

こんな人におすすめ !

 分配可能額の計算方法を知りたい

 のれん等調整額に関する控除額の計算を覚えたい

 分配可能額の問題を解けるようになりたい

分配可能額の算定方法

分配可能額は、剰余金の額を基礎としてそれに一定の金額を増減することで算出することができます。具体的には次の①から②〜⑤の項目を控除して算定します。

まず基準となるのは、剰余金分配時点の剰余金です。

分配可能額の計算要素

 剰余金分配時点における剰余金の金額
例:その他利益剰余金・その他資本剰余金

剰余金の金額から次の要素の合計額を控除した額が分配可能額となります。

分配可能額の計算要素

 剰余金分配時点における自己株式の帳簿価額

 最終事業年度末日後、剰余金分配時点までに生じた自己株式の処分対価

 最終事業年度末日におけるのれん等調整額に関する金額

 最終事業年度末日におけるその他有価証券評価差額金の借方残高

のれん等調整額とは

のれん等調整額とはのれんを2で除した額に繰延資産を加えたものをいいます。また、資本等金額は資本金と準備金(資本準備金と利益準備金)を合計した金額を指します。

これらはのれん等調整額に関する控除額を計算する上で必要な要素になります。

 のれん等調整額=のれん÷2+繰延資産

 資本等金額=資本金+資本準備金+利益準備金

のれん等調整額に関する控除額の計算

のれん等調整額に関して、以下の表のとおり分配可能額算定時の控除額が定められています。なお、すべて最終事業年度末日の金額に基づいて算定します。

のれん等調整額の大きさ控除額
のれん等調整額 ≦ 資本等金額なし
のれん等調整額 > 資本等金額 かつ
のれん等調整額 ≦ 資本等金額+その他資本剰余金
のれん等調整額ー資本等金額
のれん等調整額 > 資本等金額+その他資本剰余金 かつ
のれん÷2 ≦ 資本等金額+その他資本剰余金
のれん等調整額ー資本等金額
のれん等調整額 > 資本等金額+その他資本剰余金 かつ
のれん÷2 > 資本等金額+その他資本剰余金
その他資本剰余金+繰延資産

①〜④の状況を貸借対照表にまとめると次のようになります。

ケース①(控除額ゼロ)

①のケース:控除額ゼロ
のれん等調整額(太枠)が資本等金額より小さい場合、控除はありません。

貸借対照表
のれん÷2
繰延資産資本等
その他資本剰余金

ケース②(のれん等調整額ー資本等が控除額)

のれん等調整額(太枠)が資本等より大きくなる場合に控除が発生します。
また、のれん等調整額の金額が資本等+その他資本剰余金より小さい場合は、のれん等調整額から資本等の金額を差し引いた差額が控除額になります。

注)のれん等調整額の金額が資本等+その他資本剰余より大きい場合は次のケースでの判定となります。

貸借対照表
のれん÷2資本等
繰延資産
その他資本剰余金

ケース③(のれん等調整額ー資本等が控除額)

のれん等調整額(太枠)が資本等+その他資本剰余金より大きい場合は追加で次の判定を行います。

のれんを2で割った金額が資本等金額+その他資本剰余金より小さい場合は、②の場合と同様にのれん等調整額から資本等の金額を差し引いた差額が控除額になります。

貸借対照表
のれん÷2資本等
繰延資産
その他資本剰余金

ケース④(その他資本剰余金+繰延資産が控除額)

のれん等調整額が資本等+その他資本剰余金より大きい場合で、のれんを2で割った金額にが資本等+その他資本剰余金より大きい場合は、繰延資産+その他資本剰余金の金額が控除額となります。

貸借対照表
資本等
のれん÷2
その他資本剰余金
繰延資産

計算方法のまとめ

このように、「のれん等調整額の控除」の算定にはいくつかのパターンがあり複雑になっています。
ただし、分配可能額の算定上控除される額は以下のようにまとめることができます。

 これで解く

A:のれん等調整額 ー 資本等金額

B:繰延資産 + その他資本剰余金

AとBのうち、小さい方の金額を控除額とする (※Aがマイナスの場合は控除なし)

このように、計算式をまとめることができます。

なお、Aがマイナスの場合は、のれん等調整額に関する控除額はゼロになります。(のれん等調整額以外の控除は別途算定が必要)

例題

次の〔資料〕に基づき、剰余金の配当等の効力発生日(X1年6月30日)における分配可能額はいくらになるか答えなさい。

〔資料Ⅰ〕X1年3月31日における貸借対照表の純資産の部

(単位:千円)
I 株主資本
 資本金
 資本準備金
 その他資本剰余金
 利益準備金
 別途積立金
 繰越利益剰余金
 自己株式
II 評価・換算差額等
 その他有価証券評価差額金

780,000
240,000
36,000
112,000
88,000
99,000
△7,800

△2,400
純資産の部合計1,344,800

〔資料II〕
X1年3月31日における貸借対照表の資産の部の無形固定資産としては、①特許権530,000千円、②のれん620,000千円が、また繰延資産としては、株式交付費1,800千円、開発費380,000千円が計上されている。

〔資料Ⅲ〕X1年4月1日から効力発生日までの株主資本に関する数値の変動状況等
1. 別途積立金28,000千円を繰越利益剰余金に振り替えた。
2. 自己株式9,800千円を取得した。
3.自己株式(帳簿価額7,800千円)を9,000千円で処分した。
4.自己株式(帳簿価額5,000千円)を消却した。

解答・解説

まずは、X1年4月1日から効力発生日までの株主資本に関する数値の変動について処理します。

1. 別途積立金の繰越利益剰余金への振り替え

借   方金   額貸   方金   額
別途積立金28,000繰越利益剰余金28,000

2. 自己株式の取得

借   方金   額貸   方金   額
自 己 株 式9,800現 金 等9,800

3. 自己株式の処分

借   方金   額貸   方金   額
現 金 等9,000自 己 株 式
その他資本剰余金
7,800
1,200

4. 自己株式の消却

借   方金   額貸   方金   額
その他資本剰余金5,000自 己 株 式5,000

効力発生日の貸借対照表における純資産の部(上記仕訳を反映したもの)

(単位:千円)
I 株主資本
 資本金
 資本準備金
 その他資本剰余金
 利益準備金
 別途積立金
 繰越利益剰余金
 自己株式
II 評価・換算差額等
 その他有価証券評価差額金

780,000
240,000
32,200
112,000
60,000
127,000
△4,800

△2,400
純資産の部合計1,370,000

分配可能額算定の上で必要な①〜⑤は次のように計算されます。

① 剰余金分配時点における剰余金の金額
剰余金とは、その他資本剰余金と、その他利益剰余金(別途積立金・繰越利益剰余金)になります。
32,200+60,000+127,000=219,200千円

② 剰余金分配時点における自己株式の帳簿価額
効力発生日の貸借対照表における純資産の部より、4,800千円

③ 最終事業年度末日後、剰余金分配時点までに生じた自己株式の処分対価
期中取引の仕訳(3. 自己株式の処分)より、9,000千円

④ 最終事業年度末日におけるのれん等調整額に関する金額
(A):のれん等調整額ー資本等より
(620,000÷2+381,800)ー1,132,000=△440,200千円

(B):繰延資産+その他資本剰余金より
381,800+32,200=414,000千円

よって、(A)がマイナスのため、控除額なし

貸借対照表
のれん等320,000資本等
繰延資産381,8001,132,000
資本剰余32,200
利益剰余187,000

⑤ 最終事業年度末日におけるその他有価証券評価差額金の借方残高
〔資料Ⅰ〕より2,400千円

分配可能額は「① ー(② + ③ + ④ + ⑤)」で計算されるため、次のようになります。
219,200ー(4,800+9,000+0+2,400)=203,000

よって、分配可能額は203,000千円です。

(補足)臨時計算書類

会社法では、定められた決算に次期以外であっても、会社の任意で臨時計算書類を作成することが認められています。

臨時計算書類を作成した場合は、臨時決算までの期間損益が分配可能額に加減算されます。

また、分配可能額の算定上減算されていた自己株式の処分対価が加算され、分配可能額に含まれることになります。

なお、この場合、のれん等調整額に関する控除額やその他有価証券評価差額金については、臨時計算書類に基づき算定します。