在外支店の換算は簿記1級の出題範囲です。
この記事では、在外支店の換算方法について解説します。
在外支店の換算方法
換算における原則と特例
在外支店の例題の解き方
在外支店の財務諸表項目の換算
在外支店とは
簡単に言うと、海外にある支店のことです。
支店:本社・本店から遠隔にある地域において、本店と同様の営業展開するために必要に応じて設置された事務所、オフィスのことをいう。
海外にあるため、在外支店の財務諸表項目はドルやユーロなど外貨で計上されています。
原則的な考え方
支店であるため、在外支店の財務諸表項目は本支店合併財務諸表として合算されます。
結果として、在外支店の財務諸表項目は本店の財務諸表の構成要素となるため、本店の換算基準との整合性が求められています。
そのため、在外支店における外貨建て取引については、原則として本店と同様に計上することになります。具体的な換算レートについては次の章で解説しています。
在外支店の外貨建て取引は、原則として本店と同様に処理する
在外支店の換算基準
在外支店の換算基準については以下のとおりです。
在外支店の財務諸表項目 | 換算レート | |
通貨、有価証券、デリバティブ取引からの金融商品など | 本店と同じ方法(CRなど) | |
非貨幣性資産 | 取得原価で計上された棚卸資産および有形固定資産 | HR |
取得原価以外が付された場合 | 当該価額が付されたときのレート | |
棚卸資産の正味売却価額が取得原価より下落している場合 | 外貨での時価×CR | |
収益・費用 | 一般の項目 | 計上時のレート (ARも適用可能) |
収益性資産の収益化額、費用生資産の費用化額 | HR (取得原価以外が付された場合のものはその価額が付されたときのレート) | |
非貨幣性項目の額に重要性がない場合は、本店勘定など以外の全項目をCRで換算することができる。このとき、損益項目もCRで換算して良い。 |
在在外子会社はあくまで子会社であり、親会社から独立的に活動を行う傾向にある。
そのため、在外支店とは異なる考え方のもとで換算が行われる。
例題
以下の資料にもづいて、在外支店の各項目の円換算を行いなさい。
(資料I)当期末における在外支店の貸借対照表および損益計算書(単位:千ドル)
貸 借 対 照 表 | |||
借 方 科 目 | 金 額 | 貸 方 科 目 | 金 額 |
現 金 | 7,470 | 買 掛 金 | 1,320 |
売 掛 金 | 2,500 | 長期借入金 | 2,625 |
貸倒引当金 | △70 | 本 店 | 19,650 |
繰越商品 | 1,290 | 当期純利益 | 1,155 |
短期貸付金 | 2,760 | ||
備 品 | 14,400 | ||
減価償却累計額 | △3,600 | ||
24,750 | 24,750 |
損 益 計 算 書 | |||
借 方 科 目 | 金 額 | 貸 方 科 目 | 金 額 |
売上原価 | 7,800 | 売 上 高 | 12,675 |
貸倒引当金繰入 | 50 | ||
減価償却費 | 1,800 | ||
その他の費用 | 1,870 | ||
当期純利益 | 1,155 | ||
12,675 | 12,675 |
(資料II)その他の事項
- 期首商品は1,200ドルであり、1ドルあたり110円で換算している。また、期末商品は1,290千ドルであり、1ドルあたり106円で換算している。その他の項目の換算に必要な1ドルあたりの為替相場は次のとおりである。なお、売上、当期仕入および諸費用(ただし、減価償却費を除く)は期中平均相場により換算する。
備品購入時 115円 期中平均相場 107円 決算時 105円 - 本店における支店勘定の残高は2,157,090千円である。
解答・解説
在外支店の財務諸表においては、基本的に本店と同様に換算します。
そのため、金銭債権債務は CR(決算日レート)、商品や固定資産は HR(取得時レート)で換算します。また、固定資産の減価償却費や減価償却累計額については、固定資産をHRで換算した金額が基準となります。
さらに、収益と費用については原則 AR(期中平均レート)で換算しますが、売上原価については期首商品と当期仕入、期末商品をもとに算定するため、それぞれのレートで換算した金額の差額として計算します。
科目 | 円換算前(単位:ドル) | 換算レート | 円換算後(単位:円) | ||
借方 | 貸方 | 借方 | 貸方 | ||
(B/S) | |||||
現 金 | 7,470 | @105円(CR) | 784,350 | ||
売 掛 金 | 2,500 | @105円(CR) | 262,500 | ||
貸倒引当金 | △70 | @105円(CR) | △7,350 | ||
繰越商品 | 1,290 | @106円(HR) | 136,740 | ||
短期貸付金 | 2,760 | @105円(CR) | 289,800 | ||
備 品 | 14,400 | @115円(HR) | 1,656,000 | ||
減価償却累計額 | △3,600 | @115円(HR) | △414,000 | ||
買 掛 金 | 1,320 | @105円(CR) | 138,600 | ||
長期借入金 | 2,625 | @105円(CR) | 275,625 | ||
本 店 | 19,650 | 支店勘定より | 2,157,090 | ||
当期純利益 | 1,155 | 貸借差額 | 136,725 | ||
計 | 24,750 | 24,750 | 2,708,040 | 2,708,040 | |
(P/L) | |||||
売 上 高 | 12,675 | @107円(AR) | 1,356,225 | ||
売上原価 | 7,800 | 以下の解説より | 839,490 | ||
貸倒引当金繰入 | 50 | @107円(AR) | 5,350 | ||
減価償却費 | 1,800 | @115円(HR) | 207,000 | ||
その他の費用 | 1,870 | @107円(AR) | 200,090 | ||
為替差益 | 貸借差額 | 32,430 | |||
当期純利益 | 1,155 | B/Sより | 136,725 | ||
計 | 12,675 | 12,675 | 1,388,655 | 1,388,655 |
- 当期純利益はB/Sで算出したものをP/Lに記載する。
- 為替差損益は貸借差額で計算する。
売上原価の計算に注意する
売上原価は費用項目ですが、期首商品と当期仕入、期末商品をもとに算定するため、それぞれのレートで換算した金額の差額として計算する必要があります。
商品(単位:ドル) | |
期首 1,200 | 売上原価 7,800 |
当期仕入 7,890 | |
(貸借差額) | 期末 1,290 |
商品(円換算後) | |
期首 132,000 | 売上原価 839,490 |
当期仕入 844,230 | (貸借差額) |
期末 136,740 |
期首商品:1,200ドル×@110円(HR)=132,000
当期仕入:7,890ドル×@107円(AR)=844,230
期末商品:1,200ドル×@106円(HR)=136,740