主に販売を目的として所有する財産を、棚卸資産といいます。棚卸資産は貸借対照表上に記載される科目で、適切に評価するために毎期末どのくらい在庫があるか、価格の下落が生じていないかといったことを確認する必要があります。
棚卸資産の評価方法はいくつかありますが、品目別に商品を評価する方法も多いため、多様な品目を扱う小売業や卸売業などでは多くの手間と時間がかかります。そこで、取り扱う品目の多い小売業や卸売業を中心に活用されているのが売価還元法です。
この記事では売価還元法の計算方法について解説します。
売価還元法とは
売価還元法とは、棚卸資産の評価方法の一つで、値入率等の類似性に基づく棚卸資産のグループごとの期末の売価合計額に原価率を乗じて求めた金額を期末棚卸資産の価額とする方法をいいます。
棚卸資産を保有している場合、期末時点でそれらの評価額を算定する必要がありますが、数多くの商品を取り扱う小売業(百貨店やスーパーマーケットなど)や棚卸業(メーカーと小売業の中間に位置する)では、期末に全ての商品の原価を調べることは困難です。
そこで、期末商品を売価で把握し、それに原価率を乗じて期末商品の原価を算出方法が用いられることがあり、その方法を売価還元法といいます。
この原価率は仕入れた全ての商品(期首商品を含む)が売価(値札)どおりに売却されたと仮定したときの、原価と売価の平均的な比率といえます。
売価還元法では、種類の近い商品をグループとして、期末時点の棚卸資産の販売価額の合計額に原価率をかけて計算した金額で評価します。
売価還元原価法の例題
以下の資料をもとに、(1)〜(2)それぞれの場合におけるア. 棚卸減耗損、イ. 商品評価損、ウ. 貸借対照表に計上される商品の金額を計算しなさい。なお、棚卸資産の評価に関しては売価還元原価法を採用している。
(1)期末商品正味売却価額が42,000千円の場合
(2)期末商品正味売却価額が48,000千円の場合
〔資料〕
1. 期首商品棚卸高(原価):54,600千円
2. 期首商品棚卸高(売価):72,800千円
3. 当期商品仕入高:354,900千円
4. 当期商品仕入高値入額:133,460千円
5. 期中値上:49,150千円
6. 期中値下高:31,480千円
7. 期中値上取消額:28,720千円
8. 期中値下取消額:18,640千円
9. 当期末の商品減耗分(売価):2,750千円
10.当期売上高:500,000千円
原価率の計算
期首商品(原価)と当期仕入高(原価)の合計に対する売価の比率を原価率とします。計算方法は以下の通りです。
原価:54,600+354,900=409,500
売価:72,800+354,900+133,460+(49,150ー28,720)ー(31,480+18,640)=568,750
原価率:409,500÷568,750=72%
商品評価損が発生する場合
(1)期末商品正味売却価額が42,000千円の場合について見ていきましょう。
期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とします。取得原価と当該正味売却価額との差額は当期の費用として処理します。(以下参考)
棚卸資産の評価に関する会計基準 第7項
通常の販売目的(販売するための製造目的を含む。)で保有する棚卸資産は(中略)期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とする。この場合において、取得原価と当該正味売却価額との差額は当期の費用として処理する。
期末商品実地棚卸高(取得原価)は66,000×72%=47,520千円であるのに対して、正味売却価額は42,000千円になるため、商品評価損が発生します。
72% | ||||||
商品評価損 5,520 *3 | 棚卸減耗損 1,980 *2 | |||||
商品(貸借対照表) 42,000(ウ) | ||||||
あ | 66,000 *1 | 68,750 |
*1 68,750ー2,750=66,000 期末商品実地棚卸高(売価)
*2 2,750×72%=1,980(ア)
*3 66,000×72%ー42,000=5,520(イ)
商品評価損が発生しない場合
それでは、(2)の期末商品正味売却価額が48,000千円の場合について考えます。
期末商品実地棚卸高は47,520千円(66,000×72%)であるのに対して、正味売却価額は48,000千円になるため、商品評価損が発生しません。
72% | ||||||
商品評価損 0 *1(イ) | 棚卸減耗損 1,980 *2 | |||||
商品(貸借対照表) 47,520(ウ) | ||||||
あ | 66,000 | 68,750 |
*1 期末商品実地棚卸高(原価)は47,520千円で、正味売却価額は48,000千円のため、商品評価損は発生しません。
売価還元低価法とは
売価還元平均原価法による計算だと、商品の時価の下落や品質低下などが要因で値下げを行なっている場合でも、その値下額が反映されず期末商品棚卸高が算定されてしまいます。
そこで、値下額を取得原価の切り下げにも反映させるために、値下げを行う前の原価率を用いて期末商品の評価を行う売価還元低価法を適用することが考えられます。
これによって値下げによる影響が、原価率の下落を通じて商品の評価に反映されます。
また、値下額および値下取消額を除外した売価還元法(売価還元低価法)は、収益性の低下に基づく簿価切り下げという考え方と必ずしも整合するものではありませんが、値下額が売価合計額に適切に反映されている場合には、売価還元低価法の原価率により求められた期末商品棚卸高の帳簿価額は、収益性の低下に基づく簿価切下額を反映したものとみなすことができます。
売価還元低価法の例題
以下の資料をもとに、(1)と(2)のそれぞれの場合におけるア. 棚卸減耗損、イ. 商品評価損、ウ. 貸借対照表に計上される商品の金額を計算しなさい。なお、棚卸資産の評価に関しては売価還元法低価法を採用している。
(1)商品評価損を計上しない方法による場合
(2)商品評価損を計上する方法による場合
〔資料〕
1. 期首商品棚卸高(原価):65,280千円
2. 期首商品棚卸高(売価):76,800千円
3. 当期商品仕入高:282,360千円
4. 当期商品純仕入高原始値入額:71,500千円
5. 期中値上高:59,280千円
6. 期中値上取消額:26,420千円
7. 期中値下高:47,260千円
8. 期中値下取消額:18,290千円
9. 当期売上高:368,750千円
10.期末商品実地棚卸高(売価): 63,000千円
原価率の計算
売価還元低価法では、値下額を反映する前の商品売価合計を計算し原価率を算定します。
値下前の原価率
原 価:65,280+282,360=347,640
売 価:76,800+282,360+71,500+(59,280ー26,420)=463,52
原価率:347,640 ÷ 463,520=75%
値下後の原価率(売価還元平均原価法と同じ)
原 価:上記と同じ
売 価:76,800+282,360+71,500+(59,280ー26,420)ー(47,260+18,290)=434,550
原価率:347,640 ÷ 434,550=80%
商品評価損を計上しない方法による場合
商品評価損を把握しない場合には、棚卸減耗損のみが計上され、商品評価損は計上されません(イ)。
75% | ||||||
商品(貸借対照表) 47,250(ウ) | 棚卸減耗損 2,100(ア) | |||||
あ | 63,000 | 65,800 |
商品評価損を計上する方法による場合
商品評価損を計上する場合には、値下げを反映させる前の原価率(低価法)と、値下げを反映させた後の原価率(原価法)の差に基づいて、商品評価損を計上します。
80% | ||||||
商品評価損 3,150*1(イ) | 棚卸減耗損 2,240(ア) | |||||
75% | ||||||
商品(貸借対照表) 47,250(ウ) | ||||||
あ | 63,000 | 65,800 |
*1 63,000×(80%ー75%)=3,150千円
棚卸資産の評価方法について(関連記事)
この記事では、売価還元法の計算方法について解説しました。
棚卸資産の期末評価の全体像については次の記事でも解説しているので参考にしてみてください。