商品や製品、半製品、原材料、仕掛品、事務用消耗品などの資産を棚卸資産といいます。
棚卸資産については、期末評価を実施して必要に応じて簿価切り下げを行いますが、その考え方にはいくつかの種類があります。
この記事では、棚卸資産の期末評価方法の一つである売価還元法低価法について解説します。
原価法と低価法
棚卸資産の期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表に記載します。
商品の簿価切り下げについては、原価法と低価法の2種類の考え方がありましたね!
原価法と低価法の考え方は、それぞれ次のようになります。
原価法(げんかほう):棚卸資産の取得原価をもとに棚卸資産を評価する方法。
棚卸資産の収益性の下落によって正味売却価格が取得原価を下回ったときに限り帳簿価額を切り下げる。
低価法(ていかほう):原価法を使って評価した棚卸資産の評価額と、期末時点の時価による棚卸資産の評価額を比較して低いほうを棚卸資産の評価額とする方法。
このように、原価法は取得原価を、低価法は取得原価と時価(正味売却価額)の低い方を評価額とする方法です。
また、棚卸資産の期末評価の方法については次の記事でも解説していますので参考にしてみてください。
売価還元法とは
売価還元法とは、棚卸資産の評価方法の一つで、棚卸資産のグループごとの期末の売価合計額に原価率を乗じて求めた金額を期末棚卸資産の価額とする方法をいいます。
たくさんの商品を取り扱う業種では全ての商品の原価を調べるのは大変です。そこで、原価率を使って簡単に計算できるようにしていますよ!
原価率の計算
原価率は、仕入原価 ÷ 販売格価 で計算します。
数値例をもとに計算してみましょう。
仕入原価 | 販売価格 | |
期 首 商 品 | 50 | 70 |
当期仕入高 | 100 | |
原始値入額 | 60 | |
値 上 額 | 30 | |
値上取消額 | ▲10 | |
値 下 額 | ▲55 | |
値下取消額 | 5 |
仕入原価:50+100=150
販売価格:70+100+60+30ー10ー55+5=200
150 ÷200=0.75
よって、原価率は 75%となります。
売価還元低価法の原価率
売価還元低下法を考える上でのポイントは、「値下げを無視して考える」ことです。
先ほどと同じ例で計算してみましょう。値下げに関連するのは水色の部分になるのでこれらを無視して(考慮せずに)原価率を計算します。
仕入原価 | 販売価格 | |
期 首 商 品 | 50 | 70 |
当期仕入高 | 100 | |
原始値入額 | 60 | |
値 上 額 | 30 | |
値上取消額 | ▲10 | |
値 下 額 | ▲55 | |
値下取消額 | 5 |
仕入原価:50+100=150
販売価格:70+100+60+30ー10=250
原価率:150÷250=0.6
低価法による原価率:60%
原価法による原価率:75%(上述の計算例より)
このように、値下げを無視することによって低価法の原価率を計算することができます。
低価法による原価率
売価還元原価法による計算だと、商品の時価の下落や品質低下などが要因で値下げを行なっている場合でも、その値下額が反映されず期末商品棚卸高が算定されてしまいます。
そこで、値下額を取得原価の切り下げにも反映させるために、値下げを行う前の原価率を用いて期末商品の評価を行う売価還元低価法が用いられています。
次のような数値で考えてみましょう。(原価率は前述のものを使用しています)
期末商品(売価):100円
原価法による原価率で計算した場合、100×75%=75円
低価法による原価率で計算した場合、100×60%=60円
このように、値下げによる影響が原価率の下落を通じて商品の評価に反映されます。
(参考)棚卸資産に関する会計基準より 一部抜粋
・売価還元法を採用している場合においても、期末における正味売却価額が帳簿価額よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とする。
・値下額が売価合計額に適切に反映されている場合には、売価還元低価法の原価率により求められた期末商品棚卸高の帳簿価額は、収益性の低下に基づく簿価切下額を反映したものとみなすことができる。
売価還元低価法の例題
以下の資料をもとに、(1)と(2)のそれぞれの場合におけるア. 棚卸減耗損、イ. 商品評価損、ウ. 貸借対照表に計上される商品の金額を計算しなさい。なお、棚卸資産の評価に関しては売価還元法低価法を採用している。
(1)商品評価損を計上しない方法による場合
(2)商品評価損を計上する方法による場合
〔資料〕
1. 期首商品棚卸高(原価):65,280千円
2. 期首商品棚卸高(売価):76,800千円
3. 当期商品仕入高:282,360千円
4. 当期商品純仕入高原始値入額:71,500千円
5. 期中値上高:59,280千円
6. 期中値上取消額:26,420千円
7. 期中値下高:47,260千円
8. 期中値下取消額:18,290千円
9. 当期売上高:368,750千円
10.期末商品実地棚卸高(売価): 63,000千円
解答・解説
原価率の計算
売価還元低価法では、値下額を無視して原価率を算定します。
値下額を無視した原価率
原 価:65,280+282,360=347,640
売 価:76,800+282,360+71,500+(59,280ー26,420)=463,52
原価率:347,640 ÷ 463,520=75%
値下後の原価率
原 価:上記と同じ
売 価:76,800+282,360+71,500+(59,280ー26,420)ー(47,260+18,290)=434,550
原価率:347,640 ÷ 434,550=80%
商品評価損を計上しない方法による場合
商品評価損を把握しない場合には、棚卸減耗損のみが計上され、商品評価損は計上されません。
75% | ||||||
商品(貸借対照表) 47,250千円(ウ) | 棚卸減耗損 2,100千円(ア) | |||||
あ | 63,000千円 | 65,800千円 *1 |
*1 65800千円:434,550(期首売価+当期仕入売価)ー368,750千円(売上高)
商品評価損を計上する方法による場合
商品評価損を計上する場合には、値下げを反映させる前の原価率(低価法)と、値下げを反映させた後の原価率(原価法)の差に基づいて、商品評価損を計上します。
80% | ||||||
商品評価損 3,150*1(イ) | 棚卸減耗損 2,240(ア) | |||||
75% | ||||||
商品(貸借対照表) 47,250(ウ) | ||||||
あ | 63,000 | 65,800 |
*1 63,000×(80%ー75%)=3,150千円